服部 幸應

〜服部幸應さん講演〜

食育と親子クッキング

学校法人服部学園理事長、服部栄養専門学校校長

服部 幸應 さん

医学博士。内閣府「食育推進会議」委員。「早寝早起き朝ごはん」全国協議会副会長。食育を通じた生活習慣病予防や、地球環境保護の講演活動に精力的に取り組んでいる。藍綬褒章、厚生大臣表彰および、フランス政府より国家功労勲章および農事功労勲章を受章。著書に『食育のすすめ』(マガジンハウス)、『大人の食育』(日本放送出版協会)、『新食育革命 食がこどもたちを救う』(集英社)他多数。

食育の3つの柱

服部 幸應

2005年7月15日から、食育基本法という法律が施行されています。この法律は33条から成っていますが、今日はその内容を簡単にまとめてお話ししたいと思います。

食育には3つの柱があります。1つ目の柱は、どんなものを食べたら安全か、安心か、健康になれるか。例えば野菜を買うとき、農薬がいっぱい使われているのかな、遺伝子組み換えなのかな、または調理済み加工食品ですと、添加物大丈夫かな……そういったことを皆さん、やはり気にされていると思います。こういったことをご自身で少し勉強して、自分で食品を選ぶ能力=「選食力」をつけてもらいたい。

一方、お百姓さんや酪農家、食品業者などの生産者には、消費者のために安全安心なものを作ってほしい。また、生産者が作ったものを買い入れる食品メーカーさん、そこがいまいろいろと問題になって、偽装問題などというものも出てきましたけども、メーカーさんは自ら襟を正して安全安心健康なものを我々に与えてくれないといけない。我々自身が勉強するということは、その防衛策にもなります。

2番目の柱は食文化です。最近は箸を使えない人が増えましたね。いま、うちの学校にはフランス人、イタリア人、スペイン人の先生が料理を教えに来ていますが、一緒に食事に行きますと、箸を使うのがうまいんですね。あなたどこで習ったのって聞いたら、いま欧米では箸を使えないとエリートと言われないと言うんです。このままだと日本人からエリートがいなくなってしまうかもしれない(笑)。こういうことは、やはりきちっと家庭で教えることだと思います。

子どものしつけは8才までに

服部 幸應

なぜ家庭でそういうものが教わりにくくなったか、しつけにくくなったか。私はいろいろ研究しました。その結果分かったことは、15、6才になってからしつけられてももう遅いんですね。しつけは8才までにしないといけない。

詳しく申し上げますと、0才から3才というのは、親子のスキンシップが大切なときです。親御さんが子どもに子守唄を歌ってあげたり、絵本を読んであげたりする。そういった親子間のコミュニケーションが、40年前の数字と比べてみると、いまは3分の1に減ってしまっています。

次に、3才から8才。ここは1番大事な時期なんです。8才を超えたら子どもは好奇心が強くなっていって、自分が考えて質問して答えてもらったことは理解できるけれど、それ以外のことには反発するようになっていきます。脳の発達は10才で完成なんです。8才から10才までのあいだに脳細胞や脳神経がものすごい勢いで発達するんですが、さきほど申し上げたように、自分が質問したことはすっと入るけれど、そうでないことはなかなか入らないようになっていきます。

私の学校でもいろいろな実験をやってみたんですが、18才で入ってきた学生たちに2年間徹底的に食のプロの勉強をさせて、その学生たちの生活習慣が変わるかというと、なんと改善率は6%しかありませんでした。ほかの大学や短大でもだいたい5〜6%です。要は、18才ぐらいになると、“分かっちゃいるけどやめられない”んですね。

子どもは、家庭の食卓で3才から8才までに70%のモラルが形成されます。そして、8才から14才までは、学校や地域社会で90%。それまでにしっかりとしたモラルが身についていないとしつけは、もう遅いんです。

孤食と個食

服部 幸應

最近は一人で食事を食べている率が増え、それを「孤食」といいますが、これだとさびしいものです。食事のバランスも悪くなりますし、スナック菓子を食べようが清涼飲料水を飲もうが、誰も見ている人がいない。

あるいは、みんなとご飯を食べている団欒。そこにもいまは問題があります。我々が子どものころは、9割がたは家族みんなが同じものを食べていましたが、いまはばらばらの家庭が出てきた。同じ食卓についていても、お父さんカレーライス、お母さんスパゲティ、子どもはピザパイ。まるでファミリーレストランのメニューになってしまっています。電子レンジでチンすれば何でも好きなものが揃うため、子どもさんの言いなりに食事を用意している。こういうことをしていると、子どもがわがままに育つ。わがままの延長で、子どもは人の言うことをきかなくなります。

どんなところで食べるか、どんな食べ方をするか。その環境作りがすごく大事なんです。ところが、それが抜けてしまっているのが最近の家庭です。「にんじん残してるのね、だめよ残しちゃ」と言わないし、言われない。そうすると、言われないことが当たり前になって、わがままになり、言われるとカッとくる。

また、世界中でこんなにテレビをつけて食事をしている家庭が多いのは日本だけです。68%の家庭が食事をするときにテレビをつけっぱなし。28%がつけたり消したり。たったの4%がつけない家。ところが、諸外国を平均すると、つけている家庭とつけたり消したりする家庭を合わせて32%なんですよ。日本は2者を合わせると96%で世界の平均の3倍です。

テレビをつけていると、親御さんも子どももテレビに目がいってしまう。親御さんは子どもに目がいかないから、「だめでしょ、そんな箸の使い方しちゃ」とか、「今日顔色悪いね、何かあったの」といったことを言ってあげられない。そこに親子の会話があれば、実は“いじめられた”などのサインに親は気づくことができます。それが大切なんです。

家族の深いつながりを育んだり、コミュニケーションを取る場が実は食卓。食育基本法というのは、食卓基本法と言っても過言ではありません。

食べ物の輸入が止まったら……

服部 幸應

食育の3つ目の柱は食料問題です。食料自給率って皆さんご存知ですか? 日本は、食物の自給率がカロリーベースで39%しかないんです。61%は輸入なんですね。これは先進国で最下位です。世界192カ国の中でも下から数えて48番目です。

いまから44年前、フランスのドゴール大統領が、「食料自給率が100%ない国は独立国とはいえない」と言ったことがあります。日本は当時、自給率が73%ありました。それ以後、欧米諸国が軒並み自給率を上げる中、日本は下げちゃったんですね。いまは地球温暖化が進み、砂漠化も進み、大気は汚れ、水も汚れています。戦争もある。日本は現在食料の61%を輸入していますが、もし輸入が止まったらどうするんでしょう。

我々はいま、食べ物があることが当たり前だと思って生きています。輸入が止まったらみんな大変なことになりますよ。いまはお金を出せば何でも買えますが、お金を出そうが何しようが食べられなくなる、ということも考えておかないといけない。そこで、自給率を上げましょうということなんです。これは非常に大事なことです。

自給率が下がった原因は、ひとつには日本の工業化が進み、農業従事者が大幅に工業に移ったことがあります。戦前は農業関連の仕事をしていた方が1380万人いましたが、現在は210万人。そのうちの53%が65才以上です。漁業従事者も、戦前は300万人ですが現在は47万人です。

また、皆さんの召し上がっているものが目覚しい勢いで洋風化してきたこともあります。日本では採れなかった材料も使いますから、それは輸入せざるを得ない。これをちょっと控えめにして、できれば我々が30年ぐらい前に食べていたものに変えるだけでも自給率は変わります。我々は高脂肪、高カロリーのものを食べるようになり、メタボリックシンドロームなど慢性の病気も増えました。バランスの取れた食事を朝昼晩、きちっと摂っていただきたいなと思います。

豊かな食生活と残飯

服部 幸應

最後にもうひとつ加えますが、日本は残飯世界一なんです。どのくらいかというと、我々は1年間で9200万トンの食料を使っていますが、そのうちの2160万トンが残飯になっているんですね。一人あたりで計算すると、EU諸国平均の3倍の量です。

いま地球上の人口は67億ですが、このうち何割ぐらいの方が豊かな食生活をしていると思いますか。これから3つ数字言います。50%ぐらい、30%ぐらい、10%ぐらい。どうでしょう。正解は10%ぐらいです。正確にいうと8%ですから、世界67億のうち、たった6億2000万人ぐらいの人が豊かなんです。その中に、日本人は全員が入ります。

残りの92%は、13億人が食糧難、8億2800万人が栄養失調。そして1日2万5000人が餓死しています。年間でいうと900万人が餓死しているんですよ。私は、日本人が捨てている2160万トンのうち、どのぐらいあったらこの人たちが命をつなげるのかなと思って調べたら、1200万トンあればいいんです。日本はそういったことを学校で教えてないんですよね。私は中央教育審議会の委員もやっていますが、食育を必ず授業の中に入れてくれるようにということをお願いしています。そうしないとどうしようもないですからね。

短い時間の中で食育というものを凝縮してお話ししましたが、かなり幅広いものであるということは認識していただけたんじゃないかと思います。繰り返しますが、お子さんをしつけるのは8才までですよ(笑)。最近は子どもが親を殺したり、親が子を殺したりする事件が起きるなど本当に世の中がおかしくなってきていますが、生命の根源のようなものを食事の意味から考え、精神をきちっと鍛えていってぐらつかないようにするためにも、そういうことが必要なんだと思います。

(2007年11月25日 第1回ウィズガス全国親子クッキングコンテスト埼玉県大会にて)