---第2回ウィズガス全国親子クッキングコンテスト---

第2回 子供の未来のために語る食育セミナー(2009年2月1日開催)

第2回 子供の未来のために語る食育セミナー

パネラーのご紹介

服部幸應さん

服部幸應さん
(服部栄養専門学校校長)

本多京子さん

本多京子さん
(医学博士、管理栄養士)

小西雅子さん

小西雅子さん
(東京ガス㈱「食」情報センター主幹)


世界が注目する食育と、食卓の今

服部さん

日本の教育には、昔から「知育・徳育・体育」という3つの柱があります。ところが、この3つの柱ではどうも覚束ないということが、今から7、8年前に言われ始めました。これらの大元になるのが「食育」ではないかと。そこで、平成17年7月に食育基本法という法律が施行されました。世界中で、食育というものが法律になったのは日本だけなんです。フランスやアメリカにも食の教育がありますが、いずれも農林省や農務省の省令です。なんとか国の法律にならないかということで、フランスやアメリカの政府が日本に相談に来ました。他にも、韓国、台湾、中国、ロシア、オーストラリア、エジプトなどの政府関係者が日本に来ました。そのぐらい世界から関心を持たれているのが食育なんですね。 今日は、特にお子様方を育む食育のあり方について、その道では著名な、また研究歴の長い本多先生、小西先生からお話をいただこうかなと思います。

本多さん

20年ぐらい前から、例えば「ゴボウをささがきにして酢水にさらして水を切ります」という日本語が通じないことが多くなってきました。ゴボウのささがきというとゴボウを鉛筆削りに入れ、酢水というと「お水1リットルにお酢何cc?」と聞かれ、ビックリ水というと「どこのメーカー?」と聞かれたりする。また、出汁のとり方を説明すると、液体の方を流しに捨てて出汁がらをとっておく人がいたり、そういう調理技術のなさなどがすごく気になるという時代が続いていました。子供の食というものが問題になっていますが、問題はその背景である家庭にあると思います。子供の健康や心のひずみなどの根底には、やはり家庭の食生活を中心とした生活リズムの乱れが大きくあるんじゃないかなと感じています。食育は、最初は子供がスタートラインに立っていましたけども、最近では子供を育てている親、さらにその上のおじいちゃんやおばあちゃんの世代まで、全ての世代に食育がとても重要だという時代になってきていると思っています。

服部さん

子供さんを育てる上で、一番大事な食生活は家庭での食生活です。ところが、最近は家族で一緒に食事をする機会が非常に少なくなってきているんですね。ということは、しつけの時間が少ないんです。「そんな姿勢はよくないよ」「そんな箸の持ち方しちゃだめだよ」「なぜにんじん残すの」なんて昔よく言われましたよね。こういうことをきちんと言わず、好きなようにしなさいという親御さんが出てくると、人間はわがままになってしまう。わがままの結果、人から注意されるとムカつくようになるんです。

小西さん

もうひとつ、せっかく家族が食卓に揃っていても、その食卓の真ん中にあるべき料理が手作りのものではなくて、買ってきた寄せ集めのものばかり。そういう食卓も非常に問題なのかなと思っています。これは実際に私が見た事例ですが、ある小学校の調理実習で料理が出来上がったとき、あるお子さんが「これはこれから電子レンジでチンしなくちゃ食べられない」と言ったんです。聞いてみると、その子のおうちはいつも温め直しのものを食べているみたいで、食べ物というのは必ず温め直さなきゃ食べられない、できたてのものでももう1回電子レンジにかけるんだと思い込んでいるようなんですね。ですから、せっかく家族が揃っていても、そういう知識が欠如していて、本当においしいものが何かも分かっていない、そういうことも非常に問題のある状況だと思います。

食は人づくりの基本

服部さん

今から250年前に寺子屋というものができましたが、寺子屋ができる前にも世の中には素晴らしい人がたくさんいました。では、家庭で何をしていたんでしょうか。実は、一般常識をちゃんと食卓で育んだのです。明治になると尋常小学校ができましたが、家庭でもしつけはしていました。大正になっても昭和になってもしていたのですが、昭和40年頃から、しつけされない子供が一握りくらい出てきました。次の世代になると二握りになり、今は五つ握りくらいあるんですよね(笑)。

本多さん

食育には、子供の健康のために栄養を考えるとか、服部先生がおっしゃったように箸や茶碗の持ち方や、家事に全員が携るといったしつけの部分もあります。でも、今一番欠如していると思うのが、1日3回ご飯をちゃんと食べるということ。食事の時間がきちんと決まっていることが1日の生活リズムの基本になっていて、1日3回ご飯を食べれば、1日3回しつけのチャンスがあり、体をリセットしたりするタイミングにもなっていく。ですから、何を食べるかということだけではなく、いつ食べるかということもすごく大切です。
ついこの間、都道府県別の体力と学力の順位が公表されましたが、福井県が、小学生でそれぞれ1位と2位、中学生で2位と1位でしたよね。福井県は、食育基本法ができる以前から、食育活動が日本で一番進化しているところなんです。小浜市のように、学校に入る前から義務食育をやり、ご飯が炊けてお味噌汁が作れて日本茶が煎れられる、そういう子供を育てようということで、料理教室もすごく盛んです。その成果が、体力だけでなく学力の結果にもすごく現れている。食育は本当に広い意味で、人づくりの基本になっているのかなと感じています。

服部さん

今から100年以上前に、福井県小浜市に石塚左玄という人がおられたんです。お医者さんでもあった人ですが、この方は、知育体育徳育の三育ではなく五育を唱えました。三育に加え、才育、それに食育です。100年以上前にそういう人がいたんですね。びっくりしました。昔から真理はひとつですね。

炎の調理は脳を活性化する

小西さん

私どもガス会社も、全国さまざまな場所でいくつもの食育活動に取り組んでいます。全国のガス会社が協力して開催している全国親子クッキングコンテストをはじめ、私どもはやはりコンロまわりが一番得意な分野になりますので、特に"炎の調理"に着目して食育活動を推進しています。全国のガス会社が独自に開催する料理教室、農協など地元の団体や自治体と一緒に地域密着で行う食育活動、また最近はシェフの方、あるいは食のオピニオンリーダーの方々が食育活動を推進する例も多くなってきましたので、こういった方々を支援することによって、さらに広がりのある食育活動を目指しているところです。また、炎の調理が脳に与える影響についての研究も行い、その知見を活動に生かしています。

服部さん

ガスは炎を確認しながら料理できるのが素晴らしいですよね。炎が我々の脳を活性化するということで、ガスの持っている力は大きいと思います。

本多さん

今は、熱源が目で見えなくても調理できる方法がいくつもあるという時代になりましたが、ろうそくの火やガスの火はゆらいでいますよね。ゆらいでいるものを見ていると、脳が非常に安定して幸せ感を感じるというお話は、私も伺ったことがあります。

小西さん

ガス会社は全国にたくさん会社がありますので、それぞれの地域に合った食材を使いながら、それぞれの地域に合った調理法で料理がお伝えできるということも強みです。従来からある料理というのは、例えば炙るとか、土鍋を使って煮込むとか、炎ならではの調理が多い。地産地消や地域のものを伝えるときに、ガスは非常に相性がいいと思っています。

料理で分かる、"日本て広い"

服部さん

日本は、食料自給率がカロリーベースで40%しかありません。このところ地球環境が変わってきたり、また日本よりもお金持ちの途上国が出てきて、例えば日本の商社マンが海外に魚を買い付けに行っても、相手の方が高い値をつけるため買い負けする。そんなことがどんどん起こるようになりました。そうすると、今輸入している60%の量も、これからなくなるような気がするんですね。
日本の47都道府県で一番自給率が低いところは東京で、1.2%しかありません。次が大阪、3番目が神奈川県です。一番高いところは北海道で、自給率195%です。皆さん今日うち帰ったら、ご自分の地域の自給率はどのくらいか調べて、ご自分の地域で採れるものだけを買うようにしてみてください。そうすると、食材が3種類しか集まらなかったりしますが、そうしたら隣の県から買うようにしてください。
これはイタリアで始まったスローフード運動とも関係しますが、広い地域から買うよりも、また地球の裏側から買うよりも、ご自分が住んでいる地域のものを買うようにすると、その地域のお百姓さんたちが豊かになる。豊かになると、より広い畑で生産できるようになりまた収穫が増える。そうすると、安くていいものが手に入るようになるんですね。

本多さん

地元の産物は、それができてから自分の口に入るまでの時間が短いので、ビタミンの残存率などもすごく高いですよね。それから、運ぶ距離が短いため燃料を使わなくて済むので、空気も汚さない。自分にやさしく環境にもやさしい、いいことずくめです。それから、食文化の伝承ということもすごく大切です。今日コンテストで皆様方がお料理するのを拝見していて、地元の調味料を持ってきている方がすごく多かったのが印象的でした。食材だけではなく、調味料も含めて地元のものを用意している。それぞれに各地の予選を勝ち抜いた方々なので、今日の場で地元のことを知ってほしいという気持ちをすごく強くお持ちなのかなと感じました。それは大切なことだと思います。

服部さん

確かに、今日は地域性のあるお料理がたくさん出ていましたね。私も改めて、ああ、日本て広いなと感じました。

小西さん

新鮮な旬の素材はとにかくおいしいですよね。短時間の加熱でもおいしく食べられるので、忙しいお母様方に実はぴったりの素材です。今、食育的観点から、いい素材を使って短時間でパパッとお料理しましょうということをご提案しているのですが、そのときには、ガスコンロのコンロの部分だけではなく、下にある魚焼きグリルもどんどん使っていただきたい。今グリルの性能が非常によくなっていて、両面から火が出て短時間で調理ができますし、庫内温度が400度まで上がりますので、お魚だけではなく肉や野菜もおいしく出来上がります。あそこに入れっぱなしであとは出来上がりを待つだけの簡単調理にとても向いているんです。

料理をすると勉強もできるようになる?

服部さん

私が子供の頃は、よく年差のある人と一緒に遊びました。これは群れ遊びというんですが、最近はそれを見かけることが少なくなってきました。群れ遊びには、保護者がいないし先生もいない。何かあったときには子供の中のリーダー的役目のお兄さんお姉さんが仕切る。そういった経験をして子供は育ってきました。それが少ない今、子供たちの冒険心とか探究心、そういったものを蓄積させ、発揮・消化させるような場を大人は作ってあげないといけないと思うのですが、いかがでしょうか。

本多さん

お料理をすれば、それが可能ですよね。お料理って、例えばさっきグリルとコンロを一緒に使って時間を節約という話が出ましたが、短い時間で段取りよくする、つまり、頭の回転がよくないとできないんですよね。それに火も使うし、刃物も使う。子供たちが頭も体も使う遊びの現場のひとつとして、キッチン周りはすごく重要な時代になってきていると思います。

小西さん

私もやはり、体験が一番大切だなと思っています。お料理はまた、短い時間でものすごく達成感が得られるんですよね。勉強や運動ではなかなか達成感を得ることは難しいと思いますが、お料理は、出来上がったときにすごく喜びが得られたり、家族に褒められたり、やった!と感じられる。

本多さん

また次の意欲につながっていきますよね。それと、私は子供が料理の体験をすることが、学習にもすごくつながっていくと思うんです。例えば、子供は1つより2つというように、数が多くなる方が得という感覚で、増えることはプラスにとらえていきますが、分数という世界が出てきた途端にその感覚が通じなくなる。1よりも1/6の方が小さいという事実を子供が納得できなかったとき、ケーキをホールで買ってきて6等分して、1/6を子供にあげて、5/6を自分が食べてみせたのですが、そうすると確実に理解します(笑)。ですから、台所で材料を切ったりお料理をしたりすることを体験していると、案外勉強が苦痛じゃなくなると思うんですよね。
学校に行っている間は、子供の後ろには必ず勉強というものがついてきますが、自分はなぜ勉強しなければいけないのかという問いについても、お母さんやお父さんやお友達と料理を作ることによって、ああそうか、と思うようなことがたくさんあるんじゃないかなと思います。

これからの食育の必要性

服部さん

私は栄養士・調理師の学校をやっていますが、21年ほど前に、新入生に1週間の食事日記を提出してもらったんです。見てびっくりしました。朝食抜き、バランス悪い食生活、そしてダイエットをしている。君たち食のプロになるためにうちの学校に来てくれたのに、こんな生活習慣じゃだめだよ、ちゃんと2年間勉強しなさいよと言って聞かせたんです。卒業前に、私はまた1週間の食事日記を提出させて、2年前と比べてみました。どのくらい改善していたと思いますか? なんと、たった6%でした。ですが、彼らは試験では80点や100点を取っているんです。もうお気づきだと思いますが、理論は分かっているんです。ですけど、日常では、まぁこのぐらいはいいだろうとか、今だけだよ、なんて思っている。分かっちゃいるけどやめられないものって、年をとればとるほど多くなるということが分かったんですね。ですから、子供のうちにきちっと、やっていいことと悪いことを食卓で教えることが大切なんです。
短い時間でしたが、最後にお一人ずつ一言いただいて、今日は終わりにしたいと思います。

小西さん

今、全国のガス会社では、それぞれの方法で炎の調理の良さをお伝えするためにさまざまな活動を推進しています。どうぞお近くの食育イベント、あるいは料理教室にご参加いただいて、そのよさを親子でご体験いただければと思います。

本多さん

日本は食料自給率が本当に低く、服部先生のお話にもありましたように買い負けするという時代になってきて、食べものがとにかく危機的な状況になるかもしれないと言われています。ですが、食べものしか私たちの命をつなぐものはありません。もっと食べ物を大切にしなければいけませんし、食べ物を大切にするには、やはり料理の知識と知恵がすごく必要ですので、お料理の体験を通してそういうことを培っていただきたいなと思います。また、今世界には飢餓人口が9億6300万人もいます。日本は豊かだからお腹いっぱい食べられるという時代なのですが、未来の子供たちに豊かな食生活がちゃんと伝わるようにするためにも、食べ物を大切にし、料理の知恵や知識を伝えるという努力を、大人たちが今まで以上にしていかなければいけないと思っています。

会場からの質問

3歳と6歳の子供がいる母親です。働きながら子育てをしております。食育の講演などを聞くと、食育、母の愛情、母といる時間が必要、といった内容が多いのですが、時間のない中での食育はどこにポイントを置けばよいのでしょうか。

本多さん

私も働くお母さんの一人で、子供を0歳から保育園に預けてという生活をしてきました。私がとても大切だと思っているのは、とにかく子供にお手伝いをさせること。例えば、歩くことができるようになったら、お茶碗を運んだりお箸を運んだりできますよね。もうあなたがお茶碗を運んでくれなければご飯が食べられないというぐらいに、小さな子供でも大事な役割を持ってもらう。そのとき大切なのは目配りです。手を出してはいけない、でも目配りはしておかなければいけない。それが、子供に身近な食生活を通して、食を体験させるときに大切なことだと思います。

小西さん

私も中学1年になる娘が1人おりますが、今日のテーマにもありましたように食卓を家族で囲むことはすごく重要だと考えていて、なるべく夜の会合よりも自宅での食事を優先して過ごしてきました。でもどうしても、1日かけて食事の準備ができる専業主婦のお母さまに比べると、例えば品数が少し少ないとか、手のかかったものが少ないということは出てきてしまうと思うんです。でも、大切なのは家族で一緒に食べること。そこは気持ちや質の部分でカバーできれば十分なんじゃないかと思います。

服部さん

子供は、8歳から10歳の間にいろいろなことに非常に好奇心を持ちます。このとき、子供さんが質問したことに親御さんが答えてあげると素直に聞きますが、聞かないことまでこうしなさいと言うと、反発になるんですね。ですから、独自の好奇心が芽生えて反発が始まる8歳くらいまでにしつけをし、子供さんにひとつの形を分からせてあげるということは大事だろうなと思います。ひとつお願いがあるのですが、子供さんといるときはテレビを見るのを避けていただきたい。例えば、食事をしているときに子供を観察して、今日顔色悪いねと言ってあげられれば、実はいじめに遭っているんだ、という言葉が返ってくるかもしれない。テレビに集中してそういうことを見過ごしていると、子供が親を信用しなくなり、言うことを聞かなくなると思うんですね。大切な時期ですから、こういったことを意識していただくといいなと思います。

(2009年2月1日 第2回ウィズガス全国親子クッキングコンテスト「子供の未来のために語る食育セミナー」にて)