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審査委員長

 

審査委員長 小玉祐一郎〔建築家・神戸芸術工科大学教授〕

 

〔審査総評〕
 地球環境問題に対応しながら、どのように未来のエネルギー計画を構築できるのか。東日本大震災を経て私たちは、この課題の重要さをあらためて認識し、具体的な方策を立てることを求められている。これまでのエネルギー資源に代わる再生可能エネルギー資源の開発、これまでにも増して効率的なエネルギーシステムの開発が、喫緊の課題として挙げられているが、忘れられがちなのが、用途の特性に合わせたエネルギー利用である。その代表的なものの一つが太陽熱だ。たとえば、日本の電力の3分の一は家庭で消費されており、家庭で消費されるエネルギーの6割が暖房・給湯用である。パッシブであれアクティブであれ、太陽熱を利用しやすい用途である。ここに活用できればその分、電力のような貴重なエネルギーを他の用途に差し向けることができる。このような適材適所の発想をスマート・シティや創エネルギーの構想に組み込むことが今こそ必要である。
 一方で、我が国は人口縮小に向けた都市や地域の再編が求められている。これまでとは違った環境観や自然観が求められている。私たちは明日、どのような都市や村に住むのか、そのイメージを確立し、それから遡って現代の地域の計画を作成する手法も有効である。
 ソーラータウンのコンペのテーマは、具体的な地域を対象として、エネルギー計画を組み込んだ地域や町の再生計画である。ソフトとハードの両面からの考察を要する、ある意味では極めて難しい課題であるが、提案はそのような募集側の懸念を軽々と飛び越え、既成の枠にとらわれない自由な発想に満ちていた。気鋭の若手の参加者が多かったということと無縁ではあるまい。いずれも力作ぞろいだが、マクロ、ミクロの異なったスケールから地域コミュニティをとらえたふたつの提案が最優秀賞に選ばれた。「ソーラークロスコミュニティ」はマクロな視点から地域の特性を読み取り、社会的・自然的な環境のポテンシャルを活用する提案であり、「蔦のトンネル」は、地震で地盤液状化の被害を受けた地域のエネルギーインフラの整備と居住環境整備を向こう三軒両隣のミクロなスケールから提案したものだ。この2点と最後まで争ったのが住宅ストックの再生とエネルギー計画の統合を意図した「エネルギーの森、熱のみち、歩くまち」であった。バラエティに富んだ入賞作品の充実ぶりをじっくりと、多くの方に見ていただきたいものだ。


審査委員

 

審査委員 秋元孝之〔芝浦工業大学教授〕

 

 東日本大震災という未曾有の災害を経て日本人の価値観が変わりつつある。特に原子力発電所の事故は日本全体に大きな影響を及ぼしている。この経験を正しく生かして、今後の建築、設備設計に反映することが求められている。地球温暖化防止やエネルギーセキュリティーの確保を実現には、低炭素社会の実現に向けた環境性に優れた住宅・建築物の普及が今後一層重要となる。そのような背景のもと、今回のデザインコンペティションが実施された。特徴的なこととしてこれまでと異なり、建物単体ではなく、再生可能エネルギーを活用した近未来の自立性の高い広域の街区レベルの提案を求めたことが挙げられる。
 ソーラーデザインコンペティションの回を重ね、リアリティの高い優れた提案が多く寄せられ、審査が大いに盛り上がった。公開審査の対象として9つの提案が選ばれ、プレゼンテーションと質疑がなされた。どの提案も甲乙つけがたいほどの出来栄えであったが、その中で最優秀賞となった「Solar Cross Community」は、東京都大田区雑色駅周辺の六郷用水路跡の再生を掲げ、住宅と町工場、学校、老人保健施設、等と創エネルギー、省エネルギーをバランスよく組み込んだ提案である。同じく最優秀賞の「蔦のトンネル」は、震災によって引き起こされた液状化現象の爪痕の残る千葉県浦安市舞浜2丁目を取り上げ、地域の自然エネルギーを十分に活用した有機的につながる新しい街区を示している。学生による提案として「Solar Block Project」、「Air TUBE City」がアイデア賞(学生奨励賞)に採択された。技術的な面でまだこなれていないところも散見されるが、こうした次世代を担う若者達の取り組みにも、今後大いに期待したい。
 我々は史上稀にみる大災害に見舞われるという特別な経験をし、被災地では未だ回復することのできない甚大なダメージを受けている。この経験は今後に生かさなくてはならない。制限のある環境下だからこそ我々の智恵の出しどころである。

審査委員

 

審査委員 小泉雅生〔建築家・首都大学東京教授〕

 

 昨年に引き続きソーラーエネルギー利用に関わるアイディアコンペの審査員を務めることとなった。昨年の審査会は東日本大震災の前日、3月10日であった。いま振り返ると、ずいぶんと前のことのような気がする。あらためて長い1年であったと実感した次第である。
 震災とその後に続くエネルギー供給の混乱は、我々の生活が依って立つエネルギー基盤がいかにブラックボックス化されているかを浮かび上がらせた。そして単体だけでなく、面的な拡がりの中でエネルギー問題を考えなければならないことも明確に示されたように思う。そこで「ソーラータウンコンペ」として、エリアレベルでの太陽エネルギーデザインの可能性を探ろうというのが今回の趣旨であった。テーマの重さ、大きさゆえに、応募数の減少が懸念されたが、うれしいことに密度の高い提案が数多く集まった。残念ながら被災した街の復興に取り組んだ提案は少なかったが、このような状況下で真摯にエネルギーのあり方について思索すること自体が意義深いことだと思う。応募者に敬意を表したい。
 審査においては、効率的な太陽エネルギー利用のシステム構築ということだけでなく、ブラックボックス化したエネルギーを可視化して、住民が我がこととして感じられるためには何が必要なのか、そのための建築的工夫やまちづくりの視点を重視した。そういった観点で「農び路」や「蔦のトンネル」といった、郊外戸建て住宅群における身近な太陽エネルギー利用の提案は魅力的であった。また、「Solar Cross Community」における水系や産業といった既存要素を活かしつつ、エネルギーをベースとした新たな都市軸を重ねていくという手法には、これからのまちづくりの可能性が示されているように感じた。
 これらの提案・議論の先に、これから我々はどのような社会や都市を構築していくのか、そしてそのためにどのような寄与ができるのか、重い問いがなされている。

審査委員

 

審査委員 下田吉之〔大阪大学教授〕

 

 現在、再生可能エネルギー利用の拡大が国家的な課題となっているにもかかわらず、我が国の太陽熱利用は太陽電池の陰に隠れた部分もあり、普及が低迷している。私見だが、普及への鍵の一つは利便性の問題、もう一つはプロダクトとしての魅力の問題で、後者を解決するのは機器およびそれを含んだ建築・都市のデザインである。その意味で、今回のコンペには太陽熱の都市規模利用拡大のために大きな意義があり、今回の応募作品全てから、いろいろなことを学ばせていただいた。まずは応募者の皆様に御礼申し上げたい。
 さて、都市エネルギーシステムを研究している立場から、今回の審査を通じて以下のようなことを感じた。建築環境工学には大きく分けて建築計画原論と建築設備の分野があり、前者は建築のデザインと環境の関係を論じパッシブソーラーの技術に通じる一方、後者は設備によるアクティブな環境調整を論じる。都市環境工学にも同様な2つの考え方があるべきで、今回のコンペで言えば、太陽熱利用設備を中心としてどのようなエネルギーシステムを組むかという課題と、太陽エネルギーを利用するために、どのような街の形が望ましいかという課題の2つの側面がある。都市デザインのコンペである以上、土地利用すなわち建物の配置、高さや形などについてエネルギーと景観、そのほかの要素を融合させた斬新な提案を期待した。また一方でエネルギーシステムとして、太陽エネルギー利用によりどの程度のエネルギー消費削減・温室効果ガス排出削減効果があるのかを定量的に示すことも重要だと考えた。今回の審査では、私はこの両者のバランスを重視した。
 これらの課題を解決していくためには、計画・環境・設備のそれぞれの専門家がアイデアを出しながら街の形を作っていく作業が必要で、このコンペが継続していくのであれば、次回は是非このようなコラボレーションを期待したい。

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