2022年9月21日

ガスZEBポータルが公開されました。

 

全国各地にさまざまなタイプのガスZEBが誕生しています。こちらをご覧ください。

国がZEBの普及を加速。
企業の意識に変化、自治体も

早稲田大学創造理工学部
建築学科教授

田辺 新一

たなべしんいち / Shin-ichi Tanabe

建築物分野の脱炭素対策として「ZEB」が急速に注目を集めている。地方自治体・企業がガス空調やガスコージェネレーションシステム(以下、コージェネ)等を活用してZEBを実現した、いわば「ガスZEB」の先進事例も増えてきた。そこで、田辺新一・早稲田大学創造理工学部建築学科教授にZEBの重要性について聞いた。

 2020年10月、菅義偉前首相が国会で所信表明演説を行い、日本が50年までにカーボンニュートラル(CN)を目指すと宣言した。21年10月には温室効果ガスを30年度までに13年度比で46%削減することを盛り込んだ「地球温暖化対策計画」が閣議決定された。その中で「業務その他部門」の温室効果ガス排出量を51%削減、「家庭部門」を66%削減する方針が決まった。

 田辺新一教授は、「建築物分野の排出削減策の大きな柱が、徹底的な省エネと再生可能エネルギーの導入拡大である。電化して再エネ電力を導入すれば、省エネの努力は不要との声もあるが、日本は資源が非常に少なく、エネルギー自給率は11%程度しかない。そうした状況では、他の国々よりさらに徹底した省エネが必要になることを認識すべきである」と警鐘する。

 建築物の省エネを推進するため、一定規模以上の非住宅建築物に省エネ基準への適合を義務付ける「建築物省エネ法」が15年7月に公布された。これに合わせ、「一次エネルギー消費性能(BEI)」という新たな評価基準も導入された。同法によって17年度から2000平方メートル以上の非住宅建築物は新築時にBEIが1.0以下という基準を満たすことが義務付けられた。その後、300平方メートル以上の非住宅建築物にも拡張された。省エネをさらに進めた建物がZEBである。ZEBは、その性能によって『ZEB』、“Nearly ZEB”、“ZEB Ready”、“ZEB Oriented”に分けられる。注目されているZEBであるが、非住宅建築物の年間着工数に占める割合は0.5%以下である。」

 「大きな理由がコストだ。“ZEB Ready”に相当する建築物を建てた場合、イニシャルコストは5~10%程度増すとの調査結果がある。このコスト増加分を不動産価値の向上につなげられるような市場環境がまだ整備されていないことが普及のネックとなっていた。」

 しかし、国のCN宣言を契機に停滞していた状況が大きく様変わりしつつある。
 国土交通省、経済産業省、環境省の3省は21年4月から「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策のあり方検討会」を開き、脱炭素化に向けた対応策を議論。CNに向けた住宅・建築物の省エネ対策のあり方・進め方のロードマップを取りまとめた。この中ではZEBも大きく取り上げられている。
また、各省はZEBを積極的に推進する方針を相次いで打ち出している。国土交通省は今年4月に「官庁施設の環境保全性基準」を改定。官庁施設を新築する場合、エネルギー消費性能を原則「ZEB Oriented」相当以上とすることを規定した。
 文部科学省は5月に「ZEB事例集」を公表した。CNの実現に向け、省エネルギー対策等を図った文教施設整備を推進することを目的としたもので、「ZEBデザイン」の事例を紹介している。環境省は4月1日に温暖化対策推進法が改正されたことに伴い、地方自治体への国からの技術的助言「地方公共団体実行計画策定・実施マニュアル」を改定した。マニュアルの中には、ZEB化について取り上げられている。

 こうした中、民間企業にも変化が表れている。「不動産価値向上に向け、ZEB化が重要であるとの認識が広まってきている。これまではあまり積極的ではなかった高層ビル、超高層ビルでも「ZEB Ready」級の建築物が建ち始めている。地方自治体が、市役所や町役場等をZEB化する事例も各地に増えてきた。自治体にはZEB化によって光熱費を削減できるほか、レジリエンス性も向上させられる利点がある」と田辺教授は指摘する。

 最後に、今後のZEBと、50年のCN実現に向けたガス業界に対する期待について聞いた。
 「日本が今後、ZEBを推進していく上では、新築のみならず、既存の建築物を改修してZEB化することも重要になるだろう。既存の建築物を有効利用することで、「エンボディード・カーボン(コンクリートや鉄等の建築資材の製造時のCO₂排出を含めた新築時の排出量)を削減できるためだ。
 また、CNなエネルギーとして再エネ電力が注目されているが、昨今の電力需給ひっ迫や電気料金の高騰リスク等を踏まえれば、ガスを使用していくことも重要になる。GHP等を活用し、ZEB化を達成するとともに建物の消費電力を削減することが可能だ。現時点ではクレジットを活用して燃焼時にCO₂を排出しないと見なされるCN都市ガス等を活用していくことになるが、ガス業界はメタネーションの技術開発を進めており、将来はCNなガスを使用することも可能になっていくだろう。
 50年のCN実現に向けては、エネルギー供給事業者はガスや電気を販売して収益を上げる、これまでの事業モデルから「サービス」を提供する事業へとシフトしていく必要がある。ZEBについても上手な運用時のエネマネサービスとして提供するようなスキームもできてくるだろう。」

〈今回の有識者〉

早稲田大学理工学術院 創造理工学部 建築学科
教授・工学博士
専門分野:建築環境学

田辺 新一

たなべしんいち / Shin-ichi Tanabe

1958年福岡県生まれ。早稲田大学創造理工学部建築学科教授、専門は建築環境学。1982年早稲田大学卒業。工学博士。デンマーク工科大学、カリフォルニア大学バークレー校、お茶の水女子大学助教授を経て現職。日本学術会議会員。

ZEBについて

ZEBにおいては、建物のエネルギー消費量に関して、ゼロエネルギーの達成状況に応じて、4段階の定義があります。
このため、100%の省エネ・創エネを実現するのが難しい場合でも、状況に応じたZEBシリーズの実現を目指すことが可能です。

<4段階のZEBシリーズについて>

※建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律に基づくエネルギー消費性能基準
出典:環境省ホームページ「ZEB PORTAL(http://www.env.go.jp/earth/zeb/about/05.html)」をもとに作成

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